Once upon a time 1969
京の春の兆しは、梅にはじまる。
そして、桜のつぼみが膨らみ、ぽっぽつと桜が花開きいっきょに満開になる。
その頃の京は、観光客で一杯になるがそれは名所・旧跡でろうあ者の住むうねうねと都路地裏の小さな家には桜の花が舞い散ることもなかった。
桜が舞い散り、瓦屋根や路に花びらの模様を描くころ
1969年。
そんなろうあ者の家を訪ねて手話通訳やさまざまな問題に取り組んでいたが、今思えば、桜の花の下で相談をしていたらどんなに落ち着けただろうか、とも思う。
でも、そんなどころでない深刻な問題が多すぎた。
桜が舞い散り、瓦屋根や路に花びらの模様を描くとすぐに初夏が来るそんな頃のことだった。
あるろうあ者が息を切らして走って来た。
はちまき姿で座り込んでいるろうあ者が不安そう
「A鉄工所に行ったら、驚いた。」
「工場の門は固く閉ざされ、門にはべたべたとビラが貼られ、回りの塀には赤旗が乱立している。」
「すき間から中をのぞいてみるとろうあ者のDさんやEさんもいた。はちまき姿で座 り込んでいるが、すごく不安な顔をしている。」
「工場で何かあって、長引いているようだ。このままであの二人はやって行けるのか、 とても心配」
「聞こえない二人に、なんの手立てもされていないよう。このままでやって行けるのか、心配、心配」
という話だった。
労働組合の独特の労働組合用語
をわかりやすく手話表現するために
手話を見ているだけで、二人のろうあ者の苦悩が切々と伝わってきた。
これはただ事でない、と思いながらも当時さかんだった春闘(賃金をあげる闘い)が続いているのかも知れないとも思えたが、ともかくA鉄工所に行って様子を調べようと言うことになった。
相談員のOさんと同行することになったが、労働組合には独特の労働組合用語がある。
その用語を、解りやすく、的確に表現する手話表現をみんなで相談しながら、市電に乗ってA鉄工所に向かったが、その車中の中でも
「鉄工所」「労働組合」「春闘」「争議」
などなどの、ことば、がDさんやFさんにも解る手話表現をどうするかをずーっと二人で相談し続けた。
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