Once upon a time 1969
私たちはこの頃、Dさんだけが第1組合に残った頃。
誤解なく 事実を 今書けば
会社側からのいわゆる「切り崩し」があったことは知っていたが、まさか、ろう学校の先生たちが会社と連絡を取り、ろうあ者の家族に
「会社とトラブルを起こしたら、会社に首にさせられる。」
「ろう学校が、せっかく職場開拓してきたのに卒業生が就職の道が閉ざされる。」
「他より高い給料をもらえているA鉄工所のようなところはない。」
など、さかんにろうあ者の家族を説得して、会社に楯突いてはいけない、従うように、言うこと聞いて働かしてもらわないと、と言っていたとは夢だに思いもしなかった。
今、手話を学ぶ人々が京都のあるろう学校の先生を高く評価しているが、その先生も親を説得していたひとりだった。
ろう学校の枠に縛られる
それを解き放つ取り組みとは知らないで
ろう学校の教師が、就職できるようににしてやった。
就職できる会社を増やしたのに、A鉄工所のろうあ協会の動きはそれを潰すものだ、という深い怒りがあったのである。
卒業しても、ろう学校の枠に縛られる。
それを解き放つ取り組みがA鉄工所をめぐる問題のもうひとつの面でもあったのだ。
だが、ろう学校の先生たちの動きはろうあ協会や手話通訳者が知り得ないところで動いていた。
たえきれなくなったDさん
A鉄工所のロックアウト。
ひとり第1組合に残ったDさんのアルバイト。
日々刻々とA鉄工所の様子をDさんにわれを忘れて順に伝えに来るろうあ者。
だが、Dさんの月収は1万円の減少。
妻の出産。
年老いた母の日常生活の困難。
Dさんが、たえきれなくなったのは当然のことだった。
第二組合に入れば、今よりもっとましだろう。
抱え込んだ矛盾も解決するのでは。
なにかが おかしい ともかく、ともかく
Dさんは、日ごとに話さなくなり、疲労がありありとだれの眼にも見えた。
Dさんも、ただ黙々と働いて生きてきたのになんで、
ろうあ者のみんなも 日が経っても解決しないA鉄工所問題の原因はどこにあるのか。
何かがおかしい。
ヘンだ。
疑問だ。
ともかく、ともかくおかしい。何かが。
と思うもののそれを充分考えきれないジレンマに次々と陥っていった。
なにかが おかしい
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