Once upon a time 1969
たどり着いたA鉄工所の塀や門には、争議内容を書いたビラがはりめぐらされていた。
正門には見張り役のはちまき姿の労組の人が、イスを並べて見張っていた。
ろうあ者のDさんやFさんに会いたい、と言うと見張り役の労組の人は柔和な顔を浮かべて、DさんやFさんのところに案内してくれた。
ロックアウトとは なに
A鉄工所は、現在労働争議で「ロックアウト中です。」と労組の役員が説明してくれたが、
「ロックアウト」をどう手話通訳するのか、
でとまどった。
私の友人が、法学部の時に労働法を選択していて全国的にも著名なロックアウト権の教授の授業を受けていた。そのことを思い出しながら、手話通訳した。
手話通訳には、このような場合基礎的知識がいる。
労組の役員は、日常使う労働組合用語を乱発するが、DさんやFさんはキョトンとしている。
仕事をしない日々
ロックアウ 不安
話がわからなかったら聞いてみたら、と相談員のOさんは二人に話を投げかけたが、DさんやFさんは手を振るだけだった。
ろう学校を出てひたむきにA鉄工所で働き続けきた二人にとって、仕事と労組の人たちの言うことを素直に聞くこことが人生だった。
しかし、仕事をしない日々。ロックアウト。
不安がひたひたと押し寄せてきていることは、わかる。
心配。
どうなるの。
どうしたらいいの。
働けなくなったら生きていけない。
切実な事態にぶちあたっている。それは、辛いほど解る。
言われたことをすることで生きて来られたが
でも、それまでの生き方は、言われたことをすることが生きることだ、と教えられてきた。
たしかにそうだった。
そのようにしたら、生きてこれた。
でも、それではやって行けないようになっている。
揺れに揺れるこころは、DさんやFさんの表情にありありと現れていた。
印象深い日となった1日だったが、それから苦労と連帯の運動がはじまるとは思いもしなかった。
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