Once upon a time 1969
さて、後藤勝美さんの画集「眠りから醒めて」の文の最後の文章を掲載させていただく。
(私の描く風景画は)
それは電柱であったり、木のクイであったりだ。
入れないと気がすまないのは、なぜか自分でもわからない。そんな私である。
取材には、海外にもよく出かける。
役職時代によく湧外へ出張し、一寸の時間をスケッチした。
再開(画業)以来は、スケッチのための海外取材が多くなったが、9日~11日間の旅行で45~50枚は描いて帰国する。
楽しいことこの上もない。
1枚描くのに20~30分 もあれば
1枚描くのに20~30分もあればよい。
輪郭し、色付けして.最後には仕上げる。
この工程をすべて現場で行い、次のモチーフへ移動しては描く。
そして、大抵は単身で行動する。
私の使用する画材は、ペリカン社の透明固型えのぐ(12色)が多く、スケッチブックは、ワトソン社の4号か6号を利用している。
これに水容器2個と折たたみ椅子。鉛筆はB7かB8一本で通している。
カメラもかかえて、描きにくい場所や時間がない時は、これでパチリパチリ……という具合だ。
以上が私の取材"7つ道具"である。
そろそろ自分の画を出さんといかん
そろそろ自分の画を出さんといかんー、自分は、どんな画を描く画家をめざすべきなのかーと考えつつ、今日に至った。
もしかしたら、もう出はじめているかも知れない。
しかし、これほどむつかしいものはない。
もし出来たとしても、どう説明するか、これもまたむつかしい。
第一、出来た!と言えるものではないだろう。
つまり、終りがない。美術とはそういうものだと思っている。
にもかかわらず、描く。
ああでもない、こうでもない、と考えながら、ひたすら描きつづける。
今日も、そして、また明日も……。
後藤さんの書き方はともかく速い。
上高地で書いているメールと添付された写真を見ていて、20分もしないうちに出来上がった写真が添付されて送られてくる。
驚くばかりだった。
そして、何度も個展に誘われたし、画を描く処に気分転換においでと誘われた。
しかし、病気のためほとんど行けなかった。
ある日。体調のいい日に思い切って飛騨高山の個展会場を訪れた。
ある画の前で佇みズッーと動かない
永く行ってなかった飛騨高山。
町並みの様子は様変わりしていたが、行くとすぐ後藤さんは、「一服したいから、受付頼む」と言ってどこかに行ってしまった。
個展の受付の経験のない私は、うろたえたが、仕方がない受付のイスに座っていた。
すると、年配の女性がきて、ある画の前で佇みズッーと動かないでいた。
不思議に思い、その女性をよく見るとハンカチを取り出して泣き続けている。
それも、非常に長い時間。
声をかけることが出来ない雰囲気で、私は遠慮して黙っていた。
哀しかったこと
うれしかったこと、辛かったことが描かれている画の中に
またしばらくすると別の人がやってきて、同じようにある画の前で佇み涙を流していた。
よく考えてみると、後藤さんが描いた画の中に自分の人生をダブらせているのではないか。
哀しかったこと、うれしかったこと、辛かったことが描かれている画の中にあった、のではないかと思った。
ひょっこり、後藤さんが帰ってきたので、それからやって来る人に後藤さんが声をかけてくれるように頼み、手話通訳した。
案の定、私が生きた場所、街が描かれていると個展に来た人は涙した。
後藤さんの画の中には、見る人々の人生が描かれている、と言った。
だが、後藤さんは、「いやいや」と手を振ったが、その後の彼の画にはそれがますます色濃く出てきたように思えてならない。
後藤勝美さんについては、以下のホームページをご参照ください。
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http://www.gayukobo.com/
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