Once upon a time 1969
京都府民生労働部との交渉は、ろうあ協会の役員ばかりか会員も大喜びの結果を産んだ。
それまで、行政に直接意見を言うということがなかったため、直接言えた、と言うことはろうあ者の中で大きな波紋をおこし、その波紋は広がり続けた。
行政とのやりとりは、簡単なものではない。
とうていもの言えないと思い込んでいたのが、3人の手話通訳者の手話通訳保障で可能になった。
聞こえる人 ⇔ ろうあ者 というコミニケーションが可能に
言いたいことが言えるのだ、と言う喜び、同時に何かわけの分からないことを言っていた京都府の幹部の表情が変わった。
私たちの言っていることが、誤魔化しを射貫いた。
この時の交渉は、あとあと語り継がれることになるが、もっとみんなの心驚かせる京都府との交渉がはじまる。
1960年代は、1000人以上の人々が集まるさまざまな集会にろうあ者も参加していたし、手話通訳も会場で手話通訳をしていた。
でも、3人体制の手話通訳保障は、それまでの手話通訳を塗り替えることとなった。
なぜなら、それまでは、聞こえる人 ⇒ ろうあ者 ・ろうあ者 ⇒ 聞こえる人 という手話通訳だったものが 聞こえる人 ⇔ ろうあ者 というコミニケーションが可能になったからである。
しかも、ろうあ者が圧倒的に多数の中での交渉。
力を合わせれば、力の強い行政をはねのけ自分たちの要求が言えるようになる。
この、言った要求が本当に実現されるようにしたい。
どうしたらいいのか、などの意見がろうあ協会の役員への問い合わせとなったし、京都ろうあセンターにやってくるろうあ者のほとんどは、「交渉・よい(交渉はよかった)」と言った。
「手話通訳をやめてほしい。」と突然言い出した青年
さて、第二回目の府の幹部との交渉は、第一回とは大きく異なった。
その間、何度も役員レベルでのはなしをという申し出でを断ったろうあ協会は、府の幹部がやってくる前に集まっていたろう者と意見交換をしていた。
交渉がはじまっても、府の幹部の話し方は、以前と大きく異なっていた。
争点が、手話通訳の設置についての問題になった時に、一人のろうあ者の青年が立ち上がり、
「手話通訳をやめてほしい。」
と突然言い出した。
3人の手話通訳者に、自分が言うこと(手話で)を手話通訳しないでほしい、と言うことだった。
その場に居たろうあ者もキョトンとしてしまった。
手話通訳者もあっけにとられた。
しかし、青年の言い分を聞いて手話通訳をしないことになった。
「課長さん、私の言っていること分かりますか。」
「分かりますか。」「どうです。分かりますか。」
青年は、
「私たちが街で買い物をする時、値段が書いていない場合、これいくらですか、と聞くことが非常に難しく、ましてや聞こえる人のように値切ったり、おまけしてもらったりすることはあまりない。」
「ろうあ者の中には、そういうことを聞けないためにいつもお札を出して、おつりでいくらかを計算して知るようにしている。」
「だから、いつも小銭だらけになってしまう。」
「働いている時も、聞こえる人と充分はなしが出来ず、給料が低すぎても分からないままでいる。」
「課長さん、私の言っていること分かりますか。」
「分かりますか。」
「どうです。分かりますか。」
と手話で話しかけた。
課長や府の幹部は、自分たちに何かを言っていることは分かっても、何を言っているのか分からずポカーンとしたままだった。
そして青年は、
「手話通訳を始めてください。」
「私が、今、言ったことがあなたたちに分かりましたか。」
「あなたたちは、分からないでしょう。」
「京都府と私たちがはなしをする時、手話通訳がなければ京都府と話が出来ないのです。そうでしょ。」
「手話通訳が必要なんです。」
「私たちは、いつもあなたたちが今、私の話が分からなかった状況にいつも置かれているのですよ。」
と言い切った。
京都府の幹部は、その話を聞いてただうなずくしかなかった。
「ドンドンするのは止めてください。」と言ってきた
管理人さんから学んだことを行動に
その青年が、そのような方法で京都府の幹部に迫ったのには、訳があった。
U市の公民館で府との交渉を話している時に、ろうあ者同士のはなしが熱を帯びてきた。
「俺の話を聞いてくれ!」
とみんなに注目してもらうためにろうあ者は、しばしば机をドンドンとたたいたり、床をドンドンと鳴らしてその振動でみんなをふりむかせたりしていた。
一人でも気がつくと、両手を上下に振って、OOさんを指さして注目させるやり方だった。
ところが、公民館の管理人さんがやってきて、「ドンドンするのは止めてください。」と言ってきた。それほどみんなの意見は熱を帯びていた。
と、その時、
「そうだ!これだ。」
「公民館を貸りるだけでも大変だったのにこれでは、貸してもらえなくなる。」
「私たちは、聞こえないからあまり気にしていなかったけど、机をたたいたりすると聞こえる人にはうるさいと言うことを忘れていた。」
「だから、私たちが気兼ねなく集えるセンターが必要なんだ。」
「公民館の管理人さんにも私たちがわざと、ドンドンとしていたことでないことを知ってもらうためにも手話通訳が必要なんだ。」
という話になった。
だから、手話通訳をやめてもらって逆に私たちの気持ちを知ってもらおうということでまとまったらしかった。
さまざまなところから学び、工夫をすることで要求の内容を知ってもらおうと
考えも湧き出てきたのである。
青年の「手話通訳をやめてほしい。」は、京都府の幹部を充分理解させたことは、あとあとになって分かってくる。
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