2012年5月10日木曜日

気持ちを紛らわせないことから来るイライラは ろうあ者もみんなも


Once upon a time 1969


  Cさんは、京都南部のある電気メーカーンの工員である。
 夫の給料が少ないためCさんの収入は、家計にとって極めて重要なものであった。
 ようは、生きていけるか、行けないかを決めるほどのギリギリの生活を支えていた。
 

    
     みんなに嫌がられている悩み

 でも、ろうあ者者成人講座に来るとみんなにいつも嘆くことがあった。

 「あんたは怖い顔をいつもする。」
 「冷たい態度だ」
といわれていつも、
「みんなが嫌がり、重い仕事ばかりさせられる」
という訴えであった。
 そこで、ろうあ者相談員と手話通訳者がCさんの職場を訪ねることになった。


一分一秒も手を抜けないほどの速さが必要な
         ベルトコンベアー方式

 Cさんの職場は、女性が圧倒的に多く、ベルトコンベアー方式。

 一分一秒も手を抜けないほどの速さでベルトが流れ続けている。
 その速さに追いつくのにみんな必死。

 働く人の顔もその必死さが、浮き上がっていた。
 ただ、Cさんと一つ違うことがあった。

 それは、職場に音楽が流れ、聞こえる人はその音楽を聴きながら気持ちを和ましていることであった。

   音楽を聞いて仕事をしていることをまったく知らないで

 でも、Cさんは、入社した時から職場に音楽が流れていることを知らなかった。
 一分一秒を争う仕事と音楽。


 聞こえる人は、それなりに気を紛らわせていても、Cさんはそうではなかったのである。
 みんなは、自分も必死の形相なのに音楽で時々表情が変わる、でも、Cさんは、そういうことはなかったため
  「怖い顔をいつもする。」
 「冷たい態度だ」
と思われていることが解った。

        へーっ 音楽を聞くと気が紛れるの

 Cさんにみんなは音楽で気持ちを和ませていること、だから、音楽が流れていなければたえずみんなは、「怖い顔をいつもする。」「冷たい態度」になることを知らせた。
 
「へーっ 音楽を聞くと気が紛れるの、知らんかった」
とCさんは言う。

 眼と手先だけを集中させ続けるCさんにとって、音楽を聞くことで仕事中に気持ちを紛らわしたり、気持ちを切りかえたりすることが出来ない連続作業だったのである。

 Cさんは  おしゃべりしながら仕事が出来なかった

 だから、他の人に少し話しかけられても答える余裕もなく、つい、つい、自分の手を止めなければならないのでイライラしてなにも答えなかったことが解った。

 聞こえる人同士なら、おしゃべりしながら仕事が出来ても、Cさんは相手の顔を見なければならなかった。
 と、手が止まる。
 するとベルトコンベアーの作業物が他の人のところに流れていって、その人に迷惑がかかる。


 そんなことがあることを職場の人に説明すると、職場の人もそういうことがあるのか、気が付かなかったゴメンね、と言った。

 次から次へと流されるコンベアーを見る度にCさんの顔がよく浮かんだ。

 こまめに休憩が取れることは Cさんだけのことではなかった
 

 近年、ヨーロッパのある国では自動車生産をベルトコンベアー方式から、グループで一台つくる方式に変えたら、生産能率も働く人の製造への誇りが高まったことを聞いた。
 聞こえないから、そのことだけに全身で集中することによる疲労。

 その蓄積によるイライラ。

 聞こえない人にも聞こえる人にも生産ラインをこまめに止めたり、こまめに交代休憩がとれるようになることが大切だと思うのだが。





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