Once upon a time 1969
MHさんは昭和11年大阪府立ろう学校に入って、小学部1、2、3年までは平和な生活でたのしく学校に通っていた。
しかし、第二次世界大戦がはじまり、ろう学校の疎開で学校に行けなくなり、ろう学校を中途で終らざるを得なかった。
まさにその時、大阪で空襲に遭う。
幼稚部、難聴学級で同級生だったK子さんと相思相愛の仲
MHさんは、空襲を語ってくれたとき、特にうれしそうな顔で私にあいさつをしてくれた。
このことには、わけがあったので先に説明しておきたい。
Aさんの息子さんのO君は、ろう学校幼稚部卒業後、難聴学級に通い、普通高校そして卒業就職という時期を迎えていた。
O君は幼稚部、難聴学級で同級生だったK子さんと相思相愛の仲になっていた。
その期間は、長く続いてきたとのこと。
ある日。
MHさんとO君が訪ねてきた。
K子さんと結婚しようという約束がK子さんの親に知られてしまって、親は怒り続けてK子さんの親はK子さんとO君とまったく会えないようにした。
MHさんとしては、相手の親と話をしようと何度も家を訪れたが、「聞こえない人と話をしません!」と言ったきり、戸を締めたきっり。何度言っても同じだった。
そこで、「聞こえるあなた」なら話を聞いてくれるのではないか、ぜひ、話をしてほしい、ということがMHさんとO君からの依頼だった。
O君に「本当に結婚するつもり。まだ10代だし、早くはないか。」とあえて聞いてみた。
するとO君は「この気持ちはいつまで経っても変わらない。」と言いきり、お父さんが聞こえていたら、こんなことには……、と言い出したので。
「あなたも聞こえにくいんじゃないか」
と言うとお父さんよりはるかに聞こえるし、しゃべれる、と自慢げにいう。
ろう学校に充分行けなかったから
必死に仕事もし、読み書きも覚えはった
そこで、
「お父さんに、なんてこと言うのや」
「お父さんはろう学校に充分行けなかったから、必死に仕事もし、読み書きも覚えはった。」
「君は、お父さんがいつもガリ版印刷しているろうあ協会N支部の機関紙を見たことあるか。」
「ものすごくきれいで、ていねいで、仕事で疲れ身体をむち打って、深夜までかかってつくっはる。」
「相談に来たろうあ者には、いつもていねいに相談にのってはる。」
「私は、君のお父さんを尊敬してきた。君は、そんなお父さんのことを知っているのか。」
「お父さんは、君の気持ちを信じ、聞こえない人とは話をせんとまで同じ障害の子どもをもつ親から言われても、ぐっと耐えてはるんや。」
「君も結婚して、子どもが生まれて、お父さんは耳が悪いからこんなことになったんや、と言われたら、どう応えるのや。」
とまで話をした。
O君は黙ってしまったが、「おねがい頼む」だけは繰り返し言った。
子どもを産みもしないで母親の気持ちが分かりますか
いろいろ話したが、結果的にK子さんの母親と喫茶店で会うところまでこぎ着けた。
お母さんは会うなり、いきなり、
「あなたは子どもを産んだことがあるんですか。」
「産んだことがないでしょ。産みもしないで母親の気持ちが分かりますか。」
「でも……お母さん。二人は交際していますし、結婚したい、という希望も持っているんですが。」
「結婚」「聞こえない子どもが生まれたらどうするの。」
「あなたは、子どもを産んだこともないし、聞こえない子どもを育ってたこともないでしょ。」
ものすごい剣幕で、叱り続けられる。
回りをはばからない激怒
「でも聴覚障害者が結婚し、子どもさんも立派に育てておられる方も多いですし、」
と言ったとたん逆鱗に触れたのか、お母さんは、
「あなたはK子を産んだんですか。」「K子を産みもしないで」
と大声を出されて、激しく私を責め立てた。
その激怒は、回りをはばからなかった。
MHさんとO君に結果報告。
その後、K子さんのお母さんは、「K子がO君と会うようなことがあれば、死ぬ」っと言っていたらしかった。
察しがよいMHさんは、私がK子さんのお母さんが言われたことによる沈痛感、O君を叱ったことへの感謝から、会う度に礼を言われた。
K子さんのお母さんは、O君の両親がろうあ者であることを知っていたことから来る激怒を隠して言う、ことば、には丸みはひとつもなかった。
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