2012年3月28日水曜日

指を切断する痛みと遊興費


Once upon a time 1969

  細川汀著「健康で安全に働くための基礎」を読む度に労働安全衛生の基礎知識の重要性と1969年にあったあることを想い出す。

 細川汀著「健康で安全に働くための基礎」の 4 ミスするのが人間 ー 守られるいのちと健康 ーの項目で次のような事が書かれている。

 機械にもさまざまなものがある。
 プレスのような物を潰したりおさえる機械は特に危険である。
 両手で物を入れて、足でペダルを踏むとプレスが落ちてくる。
 非常に速く手足を交互に動かしていると、ついまちがって同時に動かしてしまうこともある。
 その途端プレスで手を潰してしまう。


 ある工場で11人の労働者が10年間に30本の指を潰していた。
 1人は両手の2本の指しか残っていなかった。

 これを防ぐには……

のプレス機のことでは、苦い苦い思いが残っている。

   プレス機で指を切断したことで会社と交渉したけれど

 ある日。
 一人のろうあ者が、ろうあ者相談員のところにやってきた。


  仕事の最中にプレス機を操作して、薬指の第二関節を切断してしまったと血がにじみ出た包帯を見せた。
 すぐ手話通訳をしていた私とともに会社に行くことになった。

 会社は治療するなどのことが充分でなかったこと。

 労働災害保険の申請をして充分治療が出来るようにろうあ者を休ませることを約束した。
 ろうあ者もそれでいいと言うことだった。


 ところが、そのろうあ者は休業中にパチンコ、ばくちばかりしていたようであった。
 私たちは、まったくそのことを知らなかった。





 二度目の労働災害はわざとだったとは

 数ヶ月経ってまたそのろうあ者がやってきた。
 今度は、小指をプレス機で切断した。

 手続きは会社がしてくれているので今は休業中だからヒマなので遊びに来たという話だった。
 私たちは、二度もプレス機で指を切断したことに驚いて転職などの話をした。

 でも、そのろうあ者は、ぜんぜん話にのってこなかった。
 


 この段階で、私たちは彼の状況を把握しておくべきだったのだが、そこまで思い至らなかった。

 指も関節ごとに少しずつ切ると痛すぎるが あとで遊べる

 再び数ヶ月すると、またプレス機で指を切断したといって遊びに来た。
 私たちは、これは大変だ、と思い会社と話をしようと言うと、そのろうあ者は絶対来てくれるな、と言う。


 指が切り刻まれていることを黙っておられるか、とみんなが言うと、そのろうあ者はぽつりぽつりと次のような話をしだした。


 労働災害を受けていると休んでいてもお金が出る。補償金も出る。
 そのお金で、パチンコやギャンブルをしていた。
 お金がなくなつて労災補償の期間が過ぎると仕事に行って、「わざと」プレス機で指が切れるようにして労災補償と補償金をもらうようにしているから、ジャマしないでくれ。


というのである。
 指も関節ごとに少しずつ切れるようにしている。
 切った時は非常に痛いが、あとの楽しみがあるとさえ言い続けた。
 
  すべての指が切断されて 残った手のひらだけが

 私たちは必死になってそのことを止めるように説得したが、それから遊びにも来なくなった。
 


 それからどれくらいの日数が経ったのか思い出せないが、ある日再び遊びに来たら、親指と人差し指が無くなっていて手話で話しているようだが、手のひらだけが動いているだけだった。

 ほかのろうあ者から聞くと、彼が人差し指と親指を切断すると補償金額が大きいと知って親指、人差し指の順番でわざと切断していって遊興したとのことだった。


 結局、彼はすべての指を切り落として姿を消してしまった。

 労働災害を防ぐこと、労災補償を受けることの意味を最初から話しておかなかったことが悔やまれてならない。



 
 

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