2012年9月17日月曜日

未完の提起 この文章を俺の子どもたちに見せたいんや


  教育としてのろう教育・聴覚障害児教育・障害児教育
ー 京都のほどんど知られていない障害児教育から学ぶ教育 ー

  自殺は弱い人間がするものだ  これからは強い人になって

 しかし自殺は弱い人間がするものだし、これからは強い人になって、いつか皆に見返してやるという気持ちが支配するようになった。

 努力する、それは第一だった。

 口をよく見て一人ひとりのくせを知る。

 私が話しをすると相手が聞きとれない時は、声を変えたりいろいろ研究したりする。

 1年もたつと自然に普通の人と交じわって話せるようになってきた。

 それでも満足に行かなかった。

 本当に心の通じ合える友人がいなかったから。

 毎週土曜日になると授業が終わったらすぐにろう学校へ行った。

 ろう学校で一緒に生活した悪友と交じっていろいろと楽しんでいた。

 これが私にとって当時の楽しみの日課であった。

 中学校へ入って1年ぐらいは悩みながらおとなしくしていた。
 
 許せなかった
  親も先生も私の気持ちを無視し「勝手にしている」こと

でも心の中には親も先生も私の気持ちを無視し「勝手にしている」ことが許せなかった。

 世の中を この私が支配して何かをやろう。

 そして誰にもまけないほどの「英雄」になること。

 そのためには、いろんな経験をつまなければ人間は伸びない、と考え、野心をもつことにした。

 そのため中学校を卒業するまでにいろいろの問題をおこしおとなの世界に入っていった。

 難聴学級が出来て以来この私が一番問題生であったことは、先生がた、親のかたがたの記憶に強く残っていることだろう。

   たえられなかった
       「さびしさ」と「孤独」

たしかに私は

  「さびしさ」と「孤独」

 「こんなことをしてはいけない!!」

と解かっていながら

「こうする」

ことが自分でも不思議でした。

「さびしさ」と「孤独」のため、たえられなかったかも知れません。

でも、でも当時の私には私の存在を理解してくれる人は、まじめに勉強する生徒より、非行に走っている生徒の方が親しみやすかったのです。

     今度は親の反対を押し切って山城高校定時制へ

 さて卒業が近づいて、いつまでもこんな悪友と一緒にいては私にとってマイナスになるだろうと進路のことでいろいろ考えた末、昼間働いて、夜は夜間学校へと思い、今度は親の反対を押し切って山城高校定時制へ入学することにした。


 G君の文章はここで終わっている。

終わっていると言うよりも相談して「書くのをやめた」というのが、本当のところだろう。

  この一つ前の(ろう学校から転校させられた ますます親や世の中をうらんだ)を注意深く読んでいただくと、何度も書き直した初期の文章と異なっていることに気がつかれるかもしてない。

 前号の文章は、彼が卒業式が終わって残業して学校に持ってきた原稿用紙からはじまり、残業がさらに遅くなり、彼の家に原稿を取りに行ったものである。

 一行書いて寝込んでしまったE君は、仕事でくたくたに疲れていた。でも、なんとか書こうと必死だった。

「先生。この文章を俺の子どもたちに見せたいんや」

「おとうもいろいろあったけれど、ここまでやってきたんやと見せたいんや」

E君は最後まで書き切ることを言い続けた。
 だが、山城高校定時制に入ってから波瀾万丈の人生がはじまり、もう一度学びなおして子どもたちが産まれた、となると膨大な文章になる。

 それはそれで、「山城高校聴覚障害教育のまとめ・資料」に載せてもいいように事務室の了解も得ていた。

 だが、一番心配だったのは、睡魔に勝てないほどの状況にE君が追い込まれていること。
 それを削って書き続けて死んでしまったら子どもたちに、

「おとうもいろいろあったけれど、ここまでやってきたんやと見せたいんや」
               
と言えないではないか。
 これ以上の無理は子どもたちのために止めようではないか、と提案した。

「そうやなぁ」

とE君は哀しそうに頷いた。

   山城高校定時制入学以降のすべてを語っている笑顔

「未完の提起」という題をつけて、元気と余裕がある時、子どもたちやみんなに「つづき」を話したらと提案してみた。

 身体の限界を感じていたE君は、「そうやなあぁ」と言った。

 2ヶ月後。印刷された「山城高校聴覚障害教育 まとめ・資料」を数冊持ってE君の家を訪れた。

 彼は、「余分にもらっていいの」と満面の笑顔を浮かべた。

 その笑顔が、山城高校定時制入学以降のすべてを語っているようで、何度も通い続けたE君家族の住む家から帰宅する深夜の夜道は、心なしか輝いているように思えてならなかった。

                                                     Esperanza


 

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