2011年10月6日木曜日

つらいなぁ、のひと言がその当時の福祉の現状を言い当てていたのだろうか


Once upon a time 1971
 

 福祉の担当者が出かける、ということを知った人たちから、次々次のような連絡があった。
  「○○さんの家に障害者がおられるようだけど、福祉で何とか出来ないか。」

「◇◇地域の□□□に障害がある方がおられる。障害者福祉ってないのでしょうか。一度尋ねて貰えませんか。心配なんです。」
 このような連絡を受けて、家庭訪問をした。

 農家だから垣根がある。垣根の向こうに人の気配を感じて、「こんにちわ」と声を掛けるのになんの音沙汰もなかった。

産まれてから家から出たことのない障害者の世界を「溶かす」
 

 こんなことが多く続いた。「生まれて、今まで家を出られたことがないから心配になって。」と連絡をしてくれた人が、役所に来て説明をしてくれた。
 行く学校もないまま、家の中がその人の人生。「近所だから、障害を持っておられるのはみんな知っているんですけど、やはりダメですか。」と嘆かれる。

 役所では、在宅障害者の実態や生活を把握出来ていなかった。
 かたくなに我が子を「守る」ためには、家族がすべての責任を負わされ、地域の人々の眼差しを避けなければならなかった。
 この凍り付いた状況は、本人や家族だけで打ち破れるものではなかった。これらの状況は、多くの地域で見られた。
 だが一方で、徐々に「凍り付いた状況」は融け始めていた。


お父さんやお母さんが死んだら、私はひとり

 こんな時にあるお母さんから、電話があった。
 「娘が施設に入りたいと言っているんですが…」という声はとても小さくて聞き取りにくかった。
 ともかく家に寄せてもらうことになったが、立派な門構えのある裕福な家だった。
 娘さんは、寝たきりの障害者で「いつまでも親の世話になっているわけにも行かないから、施設に入りたいんです。」と真っ直ぐな眼差しで話した。
 もちろん両親は大反対。
 「施設なんて…」と言うが、娘さんは

「施設言っても、お父さんやお母さんの思うような隔離された昔のような施設ばかりと違うよ。最近は、きれいな施設も出来ているし、私も歳だしいつまでもお父さんやお母さんに頼っていられない。お父さんやお母さんが死んだら、私はひとりになってしまう。」
「今からそのことを考えて、施設に入りたいの」
と娘さん。
 お母さんは泣くばかりで、お父さんは唇をかみしめていた。
「福祉のほうで、入れる施設探して貰えませんか。」

と娘さん。
 話がついたのか、つかないのか分からないまま施設を探すことになった。


話は平行線だが、高齢な親は

 だが、市内近辺はもちろん近畿全体で施設は満杯状況でさまざま探したが、見つからなかった。
 やっと府下にある新しく出来た施設が、入所可能だと分かった。
 でも、娘さんは行く、両親は絶対反対。
 かなりの話があったらしいが、両親が高齢でこの先は…ということで、娘さんの入所を、との連絡がお母さんから入った。
 話は平行線だが、親がいくら言っても老い先は知れている、電話の声は遠くから聞こえてくるようだった。
 施設への連絡、承認などの手続きは済んだ。後は、入所するだけだった。


押し殺した嗚咽と無言の時間

 公用車係にお願いに言った。今回は、普通車では行けない。寝たきりの女性を遠くまで乗せていってもらわないと、と言うと二つ返事だった。
 入所日当日。

 寝たきりの娘さんが乗れる公用車が彼女の自宅に着いた。どこにこのような公用車があったのか、と思うまもなくてきぱきと運転手係が彼女を観音開きの後部ドアーを開けて出発しようとしたその瞬間。
 お母さんは、車の日よけカーテンを必死になってすべて閉めはじめた。なぜかな、と思ったが、近所の人に見られないようにするためだとすぐ分かった。
 公用車は家を離れた。

 お母さんの押し殺した嗚咽が聞こえ、何時間もみな話さないまま施設について、彼女は入所。
 帰路もみな無言のままだった。家についてもお母さんは何も言わず車を降り、家に入った。

 無言の時間。
 運転してくれた人もその気持ちを察していてくれたのだろう、彼も無言だった。
 運転のお礼は、翌日になったが、「つらいなぁ」とお互い言い合った。

 

 娘さんもよほど考えての決断だったのだろう。「やっぱり、施設から家に帰りたい」という連絡は一切なかった。


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